現在、空手道禅道会長野県本部に住み込みながら、ディヤーナ国際学園のボランティアスタッフとして多忙な日々を送る岩手県出身、現在28歳のA子さんは、空手道の経験はまったくなかった。そんな彼女が今大きな決断をした。空手の実業団に入り、武道に真っ向から全身全霊をかけて取り組もうと。なぜ彼女はこの道に足を踏み入れたのだろうか。
A子さんの過去
2歳の頃、母親が父ではない男を追いかけて蒸発。兄がふたりいたが、後に異父兄妹であることを知る。母親はそんな3人の子供らを置き去りに父を捨て、全財産を持って消えた。
父親は大人しい人で、祖母がいたが自分とは合わなかった。児童館と同じく数名のよその子供を預り見ていた祖母は、その子達とA子さんがもめると、必ずよその子達に味方するのだ。小学校高学年の頃には殴りあうようになっていた。
そんな彼女の心の拠り所は絵を描くこと。絵を描いている時だけが、何もかも忘れられる唯一の時間だった。
やがていつしか、その絵を描くことへの情熱も冷め、自分の才能にもまた限界を感じた彼女が抱いたのは桃源郷妄想。理想のコミュニティを求めて、長野県南信地区へ地域おこし協力隊として赴任。しかし理想と現実とは大きな隔たりがあり、自らが納得できない形での解雇を宣言されてしまう。
ディヤーナ国際学園のスタッフや生徒達との出会い
そんな折、ディヤーナ国際学園のスタッフや生徒達と運命的な巡り合わせがあった。
様々な問題を抱える生徒達と関わるうちに、自分自身の幼少期からこれまでを省みるようになった彼女は初めて、ああ求めていた桃源郷とは自分自身の中にあるのだと気付いたのだ。
ボランティアスタッフとして働くなかで、人間て何だろう? 自分て何のために生まれてきたのだろう? 人に対する好奇心や自分の中にどれだけ他者を受け入れることが出来るのだろうというチャレンジ精神が沸き上がる。これこそが武道の道における礼そのものなのだと気付かされた。
自分はこの道のエリートでもなんでもない、ただの人である。それが実業団を目指すのはおかしいだろうか。
ただ勝てばいい、結果や勝率だけを求めるフィジカル重視の実業団ではない。より敷居を下げることで、武道文化が紐解く詫び錆びなどを体感しながら、自分を省みて受け入れ、社会貢献を果たしていくために挑戦していける場所なのだと。
祖母のことは今もまだ受け入れられない。母親という人は、逃げた後も愛人人生を繰り返し、夜逃げを繰り返して死んだという。だからこそ、自分はここで、様々な人達を受け入れていきたいと感じている。生まれ故郷に帰り、残された父に尋ねた。
「今何を思っているの?」
すると父親は静かにこう答えた。
「彼女を幸せにできなかった」
人という存在は美しくも儚く、せつないものだ。
全世界の人口137億人。現代の日本社会において、前向きに働いていると実感している人はわずか約6%。実業団選手の目指す道は、いつか誰もがイキイキと働ける居場所作りである。国内シェアNo.1と言われる、あすか食品の実業団へ、彼女の挑戦が始まろうとしている。
今、彼女という新鮮な風が吹いてきた。